「何か話さなければ」
そんなふうに感じたことはありませんか。
コーチングを初めて受ける方の中には、問いを受けて少し考え込んだあと、
「すみません、何も思いつかなくて……」
と申し訳なさそうに話される方がいます。
けれど、私はその言葉を聞くたびに、
「大丈夫ですよ」
と思っています。
なぜなら、その沈黙の時間には、とても大切なことが起きているからです。
私自身、沈黙が苦手な側の人間でした
実は私自身、もともとは沈黙を心地よいと感じるタイプではありませんでした。
国内大手企業や外資系IT企業で働いていた頃は、常にスピードが求められる環境にいました。
会議や打ち合わせでは、
「結論は?」
「なぜそう考えるの?」
「根拠は?」
「具体的には?」
と問われることが日常でした。
話をするときも、まず結論を伝える。
次に根拠を説明し、最後に具体例を添える。
限られた時間の中で意思決定を進めるために、
簡潔かつ論理的に伝えることが求められていました。
それはとても大切なスキルですし、私自身もその力を鍛えられてきたと思います。
だからこそ、コーチングを学び始めた頃、
「すぐに答えを出さなくてもいい」
むしろ、立ち止まって考える時間にこそ価値がある。
そんな考え方に、とても新鮮さを感じたのを覚えています。
沈黙は、何も起きていない時間ではない
私たちは普段、質問をされたらすぐに答えることに慣れています。
仕事でも学校でも、早く答えることや、正しい答えを出すことが評価される場面が多くあります。
そのため、答えがすぐに出てこないと、
「考えられていないのではないか」
「何か言わなければいけないのではないか」
と不安になることがあります。
しかし、コーチングで扱うテーマは少し違います。
例えば、
- 本当はどうしたいのか
- なぜ迷っているのか
- 何を大切にして生きたいのか
- これからどんな働き方を選びたいのか
こうした問いには正解がありません。
だからこそ、すぐに答えが出なくても自然なことなのです。
「思いつかない」のではなく、探している
問いを受けた瞬間は何も浮かばなくても、その人の内側ではさまざまなことが動き始めています。
過去の経験を振り返ったり。
自分の感情に意識を向けたり。
言葉にならない違和感の正体を探したり。
本当に大切にしたいことを確かめたり。
外から見ると静かに見える時間でも、内側では思考や感情が丁寧に整理されていることがあります。
だから私は、
「思いつかないです」
「うまく言葉になりません」
という言葉を聞いても心配していません。
むしろ、その方にとって必要な思考が始まっている時間なのだと感じています。
すぐに出てくる答えと、時間をかけて見つかる答え
私たちは経験を積むほど、反射的に答えを出せるようになります。
それは仕事を進めるうえで、とても重要な力です。
一方で、人生やキャリアの大切な選択では、その反射的な答えだけでは辿り着けないことがあります。
管理職を続けるか迷っているとき。
新しい挑戦をするか悩んでいるとき。
仕事と家庭のバランスを考えているとき。
そんな場面では、すぐに出てきた答えよりも、
その奥にある本音に耳を傾けることが大切になることがあります。
沈黙の先に現れる言葉は、自分でも気づいていなかった本当の想いかもしれません。
焦らなくても大丈夫
コーチングは、正解を早く見つけるための時間ではありません。
自分の考えや感情に向き合い、自分自身の答えを見つけていく時間です。
だから、問いを受けてすぐに答えられなくても大丈夫です。
うまく言葉にならなくても大丈夫です。
考え込んでしまう時間があっても大丈夫です。
その時間は、前に進めていない時間ではありません。
自分にとって大切な答えを探している時間です。
私は、沈黙の時間を「答えが出ていない時間」ではなく、
「その人の中で大切な思考が動いている時間」だと捉えています。
もし今、答えが出なくて立ち止まっていることがあったとしても、焦る必要はありません。
すぐに答えが出ないことには、きっと意味があります。
答えを急がず、自分の声に耳を傾ける。
そんな時間も、ときには必要なのかもしれません。

